答案

答案


 新学期が始まるとテストが続々と返ってきた。数学。古文。英語。漢文。どれも何時も通り無難な、良くも悪くもない成績である。俺はたいした興味もなく、次々に配られる答案を整理する。何枚も返ってくるうちに点数を確認するのすら馬鹿馬鹿しくなって、ろくに見もせずにそのまま赤いクリアファイルに放り込んでいった。
 しかしどうも答案が多い気がする。高一になったとはいえここまで科目数が多いはずはない。他人の答案が混ざったのかもしれないと思い、クリアファイルの中の答案をひっぱり出して、まずは一枚と開くと、それは見覚えのない答案だった。
 そもそも科目名が書いていない。氏名も書かれていない。そして点数もつけられていない。ただ回答らしきものが異国の筆記体のような判読できない文字でびっしり書いてあるだけだ。これはもう答案ぢやないぢやないか。
 そんな答案が何枚も出てきた。あらたに配られる答案もそういう類のものばかりである。皆気づかないのか、黙々とその不可解な「答案」をしまってゆく。テストが返されるというのに騒ぎ出さないこと自体がすでにおかしい。一体どうしたというのだ。俺は教師を問いただした。教師は偉そうに答えた。
 「貴様は莫迦か。事前に勉強して、準備万端の上で学校で数日にわたって行う期末テスト、それだけがテストだとでも思っているのか。貴様は莫迦か」
 「ではこの答案は期末テストの答案ではないということですか。だとすればこの無意味な文字列は一体何なのですか」
 「それは確かに貴様の答案だ。しかしその内容は貴様の知るところではないし、その点数を知る必要もない」
 「しかし先生、答案というのは問題に対して私が書いた答えのことをさすのではありませんか。これは私の書いたものではありません。ですから答案とは呼べません」
 「そうは言っても、その内容はやはり貴様について書かれたものであるのだから、貴様の書いたものと同等の性質を持っていて当然だ。むしろ貴様の記述なんかよりよほど確実だろう。貴様が自ら文章を書くなどということは、すべてを虚構で捻じ曲げようとする無駄な行為にすぎない。分かったらとっとと答案を後ろの席にまわすんだ」
 貴様貴様とうるさい教師から目をそらし机の上を見ると、前の席から送られてきていた答案が山積みになっていた。自分のものだけ引っこ抜いて後ろにまわした。思えばなぜ名前も書いていないのに自分の答案だと分かるのだろう。俺は自分が分からなくなった。自分が分からなくなりながらも自分の答案をまた取って残りの束を後ろの席の人に渡した。やがてチャイムが鳴ったが、作業の手を止めるものはなく、答案は延々と配られ続けている。