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脚集め

 脚を集める、かかとを、膝を、太ももを、そして土踏まずを蒐集する、そんな採集家――親指の爪の形を分類し、表面をちょっと舐めて味やpHを確かめる。菌を顕微鏡で観察する。膝蓋腱反射の強度の統計をとり、一通りの作業が終わると、採集家は自分の足をさまざまな足に付け替えて楽しみ、散歩に出かけたりする。お気に入りは、引退した中年ランナーのたくましい、日焼けした脚と、そばかす顔の軽がるしい女子高生のプリーツから大根のように突き出す、白く濁った脚の、二組。その日の気分で決めるが、このふたつはヘヴィローテイションで、それぞれの脚に合った靴も特別用意して、玄関に出し放しにしてある。
 ところがある日、白癬菌の観察で夜更しが祟って、翌朝寝呆け眼で脚を付け替えて公園へ出かけ、木製のベンチに座って膝を見ると、左右別々の脚であることに気づいた。お気に入りの二組を一緒くたに置いていたのが原因である。どうりで歩くのがつかえる感じだったわけで、歩いて取りに帰るのもケッタイだ。ちょうどそこに、三歳ほどの男児を連れた若い母親がやって来たので、彼女を見るなり砂場に押し倒し、両脚を携帯用の器具で取り外して、自分の脚につけ替えると、振り返らずに走って帰った。
 家に着くころには、いい運動で目も冴えはじめ、朝飯の納豆パックを勢いよく開けた。辛子の袋を開けながら、お気に入りのアスリートの脚と女子高生の脚を一本ずつあの公園に置いてきてしまったのを思い出したが、やはりまた行くのも面倒だし、今の若い母親の脚もなかなか使い心地がいいので、惜しくない気がした。
 砂場に倒れていた若い母親は、自力で、側にあった二種の脚をつかみ、自分に装着した。子供はぽかんとした顔で見ていたが、母親はなんとか立ち上がることができた。だが、やはり他人の脚を制御するのはプロの採集家でないとどだい無理な相談で、母親は二本の脚がてんでばらばらに踊り出すのを抑えられず、そのまま子供のみぞおちをランナーの強靭な足が蹴った。

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