受験記

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 「ブ……ブッダの思想はどれだ? どれなんだ!?」

 おれは センター試験を受けていた!
 しょっぱなは「倫理」
 おれのような 心頭滅却する気ゼロの人間に
 ブッダの思想など わかるのだろうか?

 受験生――
 なんとも弱々しいミジメな響きではないか。
 親のプレッシャーを背に
 周りをきょろきょろして焦り
 模試の点数を神の啓示のように信奉し
 運動不足で頬がたるみ
 欲求不満で落ち着かず
 予備校の犬と成り果てる存在……
 しかしおれは その受験生になってしまったのだ。

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 このように 寸暇を惜しんでパソコンに向かい

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 時間が余れば 机に向かって蛍雪の功。
 まさに 受験生かくあるべしだ。

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 気分がすぐれないときは 外の冷気に当たって
 日中の静かな住宅街を闊歩するのも 味なものだ。
 おれの普段の散歩道には
 公園が2つ 幼稚園が2つ 小学校が1つある。

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 母校たる小学校の 体育の風景を眺めて
 懐古の情にひたるのである。

 さて ブッダの思想について悩みまくったおれは
 試験には制限時間があるという摂理を 忘却していたのだ。
 「あと10分です」
 試験官の厳然たる宣告で 我に返ったおれは
 焦って残りの問題を解き進めていき
 最後にまとめて解答用紙にマークすることにした。

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 時間内に なんとかすべての問題を解き終えて
 おれはひとまずほっとした

 「試験終了です」

 しかし――
 さりげなく 問題用紙をめくると
 そこには もう一問
 選択肢があったのである……


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 出鼻をくじかれ おれは意気消沈していた
 やはり 煩悩がつきまとっていると
 見えるものも 見えなくなるのだ

 センター試験を ばかにしてはいけない。
 記述答案ではなく 番号を塗りつぶすだけの解答は
 達成感がなく どこか不安になる
 そして 機械で採点されるという この無機質的な怖さ
 これらが相まって センター試験は
 二次試験よりも 緊張するのだ。

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 家に帰ったおれは パソコンを開いて
 早速答えあわせをするのだった
 怖れのあまり 奇声を発しながら
 マルバツをつけてゆくおれの姿を
 家族は 不審者を見る目でみていた

 しかし全体の点数は 案外に良く
 おれは歓喜雀躍としていた

 「みたか! これがおれの頭脳だ!
  平民どもよ ひれ伏せ!」

 そのとき 電話が鳴った

 「もしもし、試験官の者ですが……」

 あらどうなさいました?
 もしかして試験場での私の頭脳のキレにおそれいりましたか?
 弟子入り志願ですか? そうですね?

 「受験票をお預かりしておりますので、取りに来てください」

 おれは
 受験票を 持ち帰り忘れていた――

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 そんな波乱万丈のセンター試験を乗り越え
 おれは二次試験に向けて ラストスパートをかけていた

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 朝も昼も夜も 世界史! 日本史! 英語!
 あこがれの大学を目指して 努力するのである! 

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 そしてようやく 本番の日がやってきた
 出かける前に 精神統一するべく
 お気に入りの曲を聴くのであった




 KORN - Pop A Pill
 このグロいサウンドが たまらないのである。

 会場ではみんなが 最後の知識確認に勤しんでおり
 張り詰めた空気がただよっていた
 ひねくれ者のおれは そこでおもむろに
 行動生物学の本を取り出し
 これ見よがしに読み始めるのであった

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 ふと顔を見上げると
 おれの2つ前の席に ポニーテールの女の子の後ろ姿があった
 なかなかに かわいい。

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 「かわいい女の子が たくさん受かりますように!」

 行動生物学でいえば
 まさしく 利他的行動だ!

 試験はべつだん緊張するでもなく
 いつも通りに 問題を解くだけであった

 昼休み
 おれの斜め前の席の いかにも浪人生ルックな男子が
 コンビニの袋から ロールケーキを取り出し
 もふもふと食っていた

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 かわいそうに
 お弁当も作ってもらえない
 浪人生の 切なさ……

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 幸あれ!

 おれの一番苦手な科目は 数学だった
 しかし今回は なんとかノルマを達成できそうなくらいの
 手ごたえを感じていた
 なにより 第一問が
 発想の要求されない ただの計算問題であり
 本当に助かったと 胸をなでおろした。

 家に帰ってくると 弟が
 試験問題を解きたいと 迫ってきたので
 からかうつもりで 冊子を渡してやった。

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 「第一問は解けたよー」

 ほう。ただの計算問題とはいえ なかなかにやるではないか。
 さあ弟よ 答えを見せてみなさい。

 あれ? おれのと違うぞ。
 まあ きみはまだ高一だからなあ。
 こういう複雑な計算は 間違えても仕方がないよ。
 さて どこで間違えたのか見てやろう。

 そしておれは検算を始めた。

 ……

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 あれ?

 「合ってね?」

 …………


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 受験生の兄
 高一の弟に 計算問題で敗れる。


 終わったことは 悔ゆるに足らず
 とにかく 勉強からは解放されたのだ!
 おれはまず うっとうしい髪を切りに行き

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 そしてパソコンをいじりまくった

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 館山に卒業旅行にも行った
 しかし メンバーが皆インドア派であり
 宿まで10キロ歩いて辿り着いた時点で
 もう一歩も外に出たくないというコンセンサスが成立したため
 宿に一日中居候するという
 意味不明な旅行であった。


 そして合格発表の日が来た。

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 旅行中に おれは合格が決まってないにもかかわらず
 羽目をはずしまくっていたので
 「もし落ちていたら 大爆笑してくれたまえ」
 と 大口を叩いていたのだった

 みじめな受験生と貶められぬよう
 可能な限り余裕をひけらかしてきたおれにとって
 合格するかしないかは
 己の学力がどうというよりは
 むしろ プライドの問題であった。

 人ごみをかき分け 自らの番号を探す――

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 プライドを 保つことができた。

 そして今 おれは
 大学入学前の 宙ぶらりんの空白な時間を
 無為にすごしている。

 せめて 運動をはじめようと思い
 いつもの散歩道を 走りはじめるのだが
 すぐに 立ち止まってしまう。

 だが いいのだ。
 今は 焦らなくてもよく
 立ち止まっていることが 許される 貴重な時間。
 おれは 今のその瞬間を
 大事に したいのである。

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